不用意に人に「幸せですか?」と尋ねると、マルチバースへの扉が開いてしまうかもしれない
マーベル・スタジオの新作映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』を観てきました。
この映画の中で、何気ないしかし妙に引っかかるセリフのひとつに「幸せ?」という問いかけがあるのですが、この問いかけを受けた登場人物たちは、一瞬の間をおいて本心をごまかすように「もちろん」と答えたり、気まずさを取り繕うように顔を背けながら「もちろん」と答えたりします。
登場人物たちがどのような気持ちからそう答えたのかは、本当のところはわからないので表情や声音やその性格から推し量るしかないのですが、確かなことは過去の心の傷をえぐったりくさびを打ち込んでしまったりしかねない、危険なひと言だということです。
もしかしたらまた違った人生があったのではないか。ひょっとしたら今よりもっと幸せな人生があったのではないか。そんなマルチバースへの誘惑に駆られてしまうひと言です。
私も一瞬意識が遠のきました。おそらく無意識のうちにマルチバースを覗いていたのでしょう。
初恋のあの人にうじうじせずに告白していたらどのような未来があったのだろう…。好きだった先輩の失恋にただ話を聞くだけじゃなくつけ込んでいたらどうなっていただろう…。女々しくも、いくつかの人生の岐路から無数に枝分かれして伸びる今とはまた違った今へと、思いを馳せてしまいました。
危ないところでした。
私が魔法を習得していなかったり、精神が不安定になったら秘められた超能力が暴走して異次元に飛んでしまったりしない、ごく普通の一般人であったため何も起こらずに済みましたが、下手したらマルチバースと繋がって飛んでしまっていてもおかしくありませんでした。
ここで自分がホッとしたことで、この今がそれなりに好きなんだということに気がつけました。口ではあの時こうしていればとかいいながら、なんだかんだこの今に愛着があるのだと。自分の決定や選択を経てたどり着いた今に自分なりに納得して受け入れているのだと。
過去の選択により派生していたかもしれないマルチバースに囚われたり引きずられたりすることなく、今を幸せに楽しく生きていきたいものです。