不用意に人に「幸せですか?」と尋ねると、マルチバースへの扉が開いてしまうかもしれない

不用意に人に「幸せですか?」と尋ねると、マルチバースへの扉が開いてしまうかもしれない

マーベル・スタジオの新作映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』を観てきました。

この映画の中で、何気ないしかし妙に引っかかるセリフのひとつに「幸せ?」という問いかけがあるのですが、この問いかけを受けた登場人物たちは、一瞬の間をおいて本心をごまかすように「もちろん」と答えたり、気まずさを取り繕うように顔を背けながら「もちろん」と答えたりします。

登場人物たちがどのような気持ちからそう答えたのかは、本当のところはわからないので表情や声音やその性格から推し量るしかないのですが、確かなことは過去の心の傷をえぐったりくさびを打ち込んでしまったりしかねない、危険なひと言だということです。

もしかしたらまた違った人生があったのではないか。ひょっとしたら今よりもっと幸せな人生があったのではないか。そんなマルチバースへの誘惑に駆られてしまうひと言です。

私も一瞬意識が遠のきました。おそらく無意識のうちにマルチバースを覗いていたのでしょう。

初恋のあの人にうじうじせずに告白していたらどのような未来があったのだろう…。好きだった先輩の失恋にただ話を聞くだけじゃなくつけ込んでいたらどうなっていただろう…。女々しくも、いくつかの人生の岐路から無数に枝分かれして伸びる今とはまた違った今へと、思いを馳せてしまいました。

危ないところでした。

私が魔法を習得していなかったり、精神が不安定になったら秘められた超能力が暴走して異次元に飛んでしまったりしない、ごく普通の一般人であったため何も起こらずに済みましたが、下手したらマルチバースと繋がって飛んでしまっていてもおかしくありませんでした。

ここで自分がホッとしたことで、この今がそれなりに好きなんだということに気がつけました。口ではあの時こうしていればとかいいながら、なんだかんだこの今に愛着があるのだと。自分の決定や選択を経てたどり着いた今に自分なりに納得して受け入れているのだと。

過去の選択により派生していたかもしれないマルチバースに囚われたり引きずられたりすることなく、今を幸せに楽しく生きていきたいものです。

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初めて『デス・プルーフ』を観たら、結末が快感すぎて思わず変な声がもれた

初めて『デス・プルーフ』を観たら、結末が快感すぎて思わず変な声がもれた

『デス・プルーフ』はクエンティン・タランティーノ監督の五本目の長編映画で、2007年に公開された作品です。

前作が『キル・ビル』で、この次が『イングロリアス・バスターズ』と、いかにもハリウッドらしい見栄えのある大作に挟まれているので、やや損をしている映画かもしれません。

昔『パルプ・フィクション』は面白いなと思ったものの『レザボア・ドッグス』と『キル・ビル』にはあまりハマらず、『イングロリアス・バスターズ』で衝撃を受けたものの過去作を見返すことはしなかったので、『デス・プルーフ』は未視聴のままでここまで来てしまいました。

超久しぶりに『キル・ビル』を観直してみたら思いがけずハマってしまって、その流れでタランティーノ監督の他の過去作も観てみようという気になりまして、初めて視聴する運びとなりました。

事前情報として予告も見ずにDVDを借りてきたので、再生ボタンを押して数分後には戸惑っていました。

何だこれは。私は一体何を観ているのだろう…。

延々と、ハッピーな青春を謳歌している妙にエロいうら若き女性のガールズトーク。今にも擦り切れそうなフィルム映像みたいな質感の画質にも困惑しました。

これは無理かも。今にも切れそうな集中力。それをギリギリで繋ぎ止めていたのは、今作のヒロインと思われる妙にエロい女の子たちの扇情力。

女子会がお開きとなったところで、このあとどうなるんだろうと思っていたらド変態のイカれた性癖大爆発で目が点に。しばし呆けてたらそのまま何事もなかったかのようにガールズトーク第二部が幕を開けたので、またここから丁寧に積み上げていくのか、すごいなと感心しました。

ということは、このコたちにもあの悲劇が訪れるのか…と暗澹たる先を予想していたら、華麗なる大逆襲にテンション爆上げ。そして結末の爽快感。天竜人の横暴にブチ切れて殴り飛ばしたルフィに通じる爽快感が全身を駆け抜けました。

感動しました。泣いてはいないですけど、しかし、この感情は間違いなく感動でしょう。

タランティーノ監督にしか撮れない世界観だと思います。これに憧れて真似しようとしたところで、退屈だけど何故か気になるという綱渡りを渡らせることができずに、脱落者を量産するだけでしょう。

やっぱりすごいですね。世界中にタランティーノ監督の熱狂的なファンがいるはずですよ。

気に入りすぎてBlu−ray買ってしまいました。これはたまに真夜中に見て、結末で歓喜の声を上げたくなる傑作です。

いつぶりか思い出せないほど久しぶりに『キル・ビル Vol. 1 & Vol. 2』を観たら、思いがけずハマった

いつぶりか思い出せないほど久しぶりに『キル・ビル Vol. 1 & Vol. 2』を観たら、思いがけずハマった

先日、女性エージェント達が大暴れするスパイアクション映画『355』を映画館で観たんですけど、その上映前に『ガンパウダー・ミルクシェイク』という新作映画の予告が流れました。

そのときに、『ジョン・ウィック』や『キル・ビル』からの影響を感じて面白そうだなと思ったものの、そういや『キル・ビル』ってずいぶん前に観たきりで内容の覚えも朧げだな、と気がついたので、レンタルビデオを利用して再鑑賞してみました。

そしたらハマっちゃったんですよ。思いがけず。自分でも意外なことに。

こんなに面白かったっけ?と。

演出や衣装が奇抜でド派手なアクション映画、という印象だったんですけど。

ストーリーは単純明快です。タイトル通り。キル・ビルを英語にするとKill Billで、ビルとは暗殺者集団のボスの名前なので、すなわち『ビルを殺せ』というのがタイトルです。

主人公はかつてビルの組織に所属していた女性の殺し屋、ザ・ブライド。ユマ・サーマンが演じるザ・ブライドの復讐譚で二本立ての、超ボリュームです。

Vol. 1では復讐対象者の家をめちゃくちゃにする決闘や病院からの逃走、どこかがおかしい日本の登場にいきなりの無駄にかっこいいアニメ挿入、居酒屋を血の海にする一対多のド派手なチャンバラ、ととにかく目を引くアクションが展開されます。

それに対し、Vol. 2ではぐっと落ち着いたトーンで物語が展開され、動機や人となりに焦点が当てられることで、荒唐無稽さや突拍子のなさが影を潜め、渋さと深みが増しています。見応えのある一対一が続いたり、忘れた頃に意外性のある不意打ちがあったりと、痺れるシーンが多いです。

覚悟を決めた緊張感の満ちた会話から決闘への流れとか、最高でしたね。特に最後の決闘。椅子に座って対面での会話からいきなり剣を抜いて切り結ぶとか、アイデアも秀逸。

映像美もすごかったですね。ザ・ブライドが復讐を決意するに至った襲撃事件の舞台は片田舎の小さな教会なんですけど、幹線道路の脇にポツンと建っている教会の中から外から、印象的な構図をビシバシ決めまくっているんですよ。

このカメラワークの凄さは、趣味でデジタル一眼レフで写真撮影するようになったからこそ気がつけた点かもしれません。

あまりにハマりすぎて、隣の市のブックオフに通りがかりついでに寄ってみたら『キル・ビル Vol. 1 & Vol.2』のツインパックDVDが売っていたので買ってしまいました。

ほんとはBlu−rayで欲しかったのですが、日本盤はプレミア化して高騰していたので、いつか再発するまでこれで物欲をやり過ごします。

洋画は字幕に限るとイキっていたおっさんが映画『シング:ネクストステージ』の日本語吹き替え版を観たら泣かされた話

洋画は字幕に限るとイキっていたおっさんが映画『シング:ネクストステージ』の日本語吹き替え版を観たら泣かされた話

私は普段、洋画は字幕版を観ています。日本語吹き替え版を観ることがあるとしたら、洋画のテレビ放送を観るときくらいでしょうか。

小中高生の頃にテレビでよく観ていた『ダイ・ハード』や『ターミネーター』などは頭の中に日本語吹き替えのイメージが定着しているので観れるのですが、最近の映画は無理ですね。

面白そうな新作映画を映画館で観たいとなったとして、字幕版の上映時間が微妙で日本語吹き替え版の上映時間がドンピシャだったとしたら、観劇を諦めるかもしれません。それくらい私は日本語吹き替え版を避けています。

それがなぜ、今回『シング:ネクストステージ』に限って日本語吹き替え版を観たのかというと、大好きなB’zのシンガーである稲葉浩志さんが伝説のロックシンガー、クレイ・キャロウェイ役で声優に初挑戦しているからです。

予告でセリフを喋っているところを少しだけ見れるのですが、それを見てなお(嘘だろ、ほんとに声優やってるよ…マジかよ…)と半信半疑だったくらい、衝撃的なニュースでした。

もしこのキャスティングがなかったらたぶん観てないですね。スルーしていたと思います。現に前作『シング』はサントラこそ買ったものの、映画は観ていないですしね。

公開初日のレイトショーで観てきたのですが、これが予想を遥かに上回る素晴らしさでした。

泣きました。圧倒的洋画字幕派の涙腺をも緩ませる日本語吹き替え版でした。

さすが、字幕しか認めないという『シング』にあって吹き替え版の権利を勝ち取っただけのことはあります。素晴らしいクオリティでした。

上映中に小さな子供が、たぶんトイレだろうと思うのですが、忍び笑いをもらしながら数回席から出入り口までドタドタと足音を立てて走って往復されて(勘弁してくれよ)と閉口したのですが、上映終了後に胸を満たしていた感動はこれしきのハプニングではゆるぎませんでした。

最愛の妻を失い世捨て人になったものの心の奥底に優しさの残るキャロウェイ、甘やかされて自由奔放に飛び回るポーシャ、引っ込み思案で可憐な乙女心を応援したくなるミーナ、鬼指導から自信を失うもそれを克服するジョニー、みんな素晴らしかったです。

他にも、暴走超特急なムーン、キャロウェイの心を解きほぐしたアッシュ、お調子者だが憎めないグンター、決めのシーンで飛び出せずに一度は役を失うも取り戻すロジータ、ムーンを献身的に支えるミス・クローリーなど、多彩な登場人物は誰も彼もが魅力的です。

キャロウェイの心を動かしたアッシュの弾き語りも素晴らしかったですが、一番感動したのは最後のデュエットでキャロウェイが歌い出した瞬間ですね。

感極まりすぎちゃって、劇中でどんな歌声を披露してくれたんだったか記憶にないんですよね。上映終了直後にはそんなことにも気づいてなくて、しばらく経ってから(あれ、そういえばどんな歌声だったっけ?)と愕然としました。

これが一番のお目当てで吹き替え版を観たのに…。

これから観る人は、この情報過多社会でそれは難しいでしょうけど、誰がどの役を担当しているのかまったく知らないまっさらな状態で、何も身構えずに観てほしいなぁと願いたくなってしまいます。

例えば、予告編でちらっとポーシャの歌声が聞けるんですけど、これを劇場でいきなり聞かされたときの衝撃といったら!ぽっと出に役を奪われて敗北感に打ちのめされるロジータと同じくらいこちらも圧倒されましたからね。あとでインタビューを見たら、普段の話し声とぜんぜん違うので二度びっくりですよ。

ミーナ役も誰か知らずに観ていたので、話し声は異様に可愛らしいし歌は異常に上手いしで(誰だこれ??)と疑問に思いながら観ていました。エンドロールでその正体を知って異常に歌が上手いのには納得しましたが、可愛らしいセリフの喋りも上手すぎる!前作では彼女の吹き替え挑戦が売りだったんでしょうね。

取り上げる曲の選曲がまた憎いんですよね。踊れるポップスからノリのいいロック・ナンバーまで、キャッチーな名曲のオンパレード。

劇中劇のタイトルが、北欧の有名ハードロックバンドの名盤タイトルや、そのハードロックバンドに在籍していたギタリストが新たに立ち上げたバンド名と同じだったのにも、不思議な縁を感じました。

できれば、映画館であと二回観たいですね。字幕版で一度。耐性をつけて、今度こそ冷静に二度目の吹き替え版。他にも観たい新作映画があるので悩ましいですが…。

しかし参りました。まさか『シング』がこんなに素晴らしい映画だったとは。ひょっとして、前作をスルーしていたのはとんでもない悪手だったのでは…。

『シング』をスルーしていたおれのバカ!アホ!間抜け!

自分で自分を罵りながら、前作『シング』のBlu-rayを注文するのでした。

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映画『キャッシュトラック』劇中にセリフとして好きな名曲タイトルが出てきて、密かに嬉しくなってテンション上がった

映画『キャッシュトラック』劇中にセリフとして好きな曲名タイトルが出てきて、密かに嬉しくなってテンション上がった

映画監督ガイ・リッチーと俳優ジェイソン・ステイサムが16年ぶりにタッグを組んだ、と予告編公開前から話題になり、その本編公開日を今か今かと待ちわびていた映画『キャッシュトラック』をさっそく観てきたら、密かに嬉しくなってテンションが上ったことがありました。

劇中のセリフとして、超大好きな名曲タイトルが登場したのです。

あれは物語終盤のことでした。主人公が追い続けていた一味の仲間が、まだしっぽも掴まれておらず、聞かれてもいないのに、自ら罪状やからくりをべらべらと喋りだしたのは。

(は?まじかよ、なに自分からネタばらししてるの?)

それはないだろう、と呆然と興ざめした耳朶に響いたのが、超大好きな名曲タイトルだったので、当惑は一瞬で消し飛び、ひとり密かに嬉しくなりテンション上がりました。現金なものです。

Our Heart’s Hero – To Be A Hero

「Don’t to be a hero」というセリフが出てきたので、CCMロックバンドOur Heart’s Heroの超名盤1st収録曲じゃないですか!とつい今しがたに抱いた不満も霧散する勢いで嬉しくなっちゃいました。

この曲大好きなんですよ。イントロから鳴り響く印象的な旋律。歌メロもキャッチーで最高です。

Faithfull – There’s No Turning Back

続けざまに「There’s no turning back」なんてセリフまで出てきたものだから、今度はポルトガルのFaithfullの1st収録の名曲かよ!とまたまたテンション上がっちゃいました。

この曲も大好きなんですよ。リリース当時、いきなりポルトガルから彗星のごとく期待の新人登場、というセンセーショナルなデビューだったので、印象深いんですよね。

不問ですね。これはもう、不問に付すしかないです。

カミングアウト系ネタばらしというやらかしにも目をつむるほかありません。

映画は、章立てて時間軸を前後させながら、動機や事件の謎を描くという構成で、『パルプ・フィクション』っぽいなあ、という印象を持ちました。

ジェイソン・ステイサムは感情の死んだ目をした苛烈な復讐鬼を演じているのですが、その苛烈ぶりといったらゆうべお楽しみだった同僚の女性に拳銃を突きつけて脅すような容赦の無さで、感情を殺して淡々と追い詰めるものですから恐ろしさのあまり震え上がるんですけど、物語の進行につれて動機も明かされて、この容赦の無さにも納得します。

アクションは少なめでやや物足りませんでしたが、カメラワークの妙と物語の構成の巧みさはさすがガイ・リッチーでしたね。面白かったです。

洋画は基本的に字幕派ですけど、セリフが好きな曲名だと気がついてテンション上がったのは初めてでしたね。珍しいこともあるものです。

https://youtu.be/EijAQBESHuo