損切りできない男

損切りできない男

少し前、SNSのタイムラインに投資漫画のちょい読みが流れてきました。

それが、詰まらない映画をいかに短い時間で見限って退席できるかどうかで投資に必要な損切りの資質を持っているかどうかを試す、という香ばしい内容だったことでほんの少し燃え上がりました。

その漫画では詰まらない映画は21分で切り捨てられていたんですけど、映画や小説ではたまに冒頭での面白さを捨ててでも前振りや種まきに徹して後半勝負してくる作品があるので、冒頭を観たり読んだりした印象だけで詰まらない駄作だと決めつけて切り捨てるのは、悪手なのではないかと思っています。

例えば、『カメラを止めるな!』という映画なんですけど。

面白すぎるという口コミで評判が評判を呼び、最初ミニシアターで細々と公開していたのがあれよあれよと拡大し、近隣の大手シネコンにもいよいよその波が押し寄せたタイミングで観に行きました。めっちゃ楽しみに。

そしたら、めちゃくちゃ詰まらなかったんですよ。最初。

(これ本当に面白いのかよ。嘘だろ〜??)

私はエンタメを損切りできない男なので、心底不安に陥りながらも耐えて観続けました。

この映画は大まかにいうと三部構成になっています。

序盤は、撮影隊がカメラに収めた30分ワンカット長回しゾンビサバイバルムービー生中継。中盤で、撮影隊や制作陣や出演者および設定の紹介。そして終盤で、次から次へとトラブルが巻き起こる生中継撮影の舞台裏を見せて、抱腹絶倒の怒涛の伏線回収。

したがって、この映画は冒頭の詰まらない30分を我慢してしかもちゃんと観ていないと、その後の笑えるところもわからないから笑えなくなる、丁寧に作り込まれた映画でした。

仮にこの映画『カメラを止めるな!』を21分で切り捨てたら、世紀のバカですね。

全部観ても詰まらなかったのならそれはもうしょうがないですが、全部観てもいない人に詰まらなかったと言われたくはありません。

損切りできる決断力も大事かもしれませんけど、心底不安に陥りながらも信じて耐えることも、同じくらい大事なんじゃないかと思いますけどね。

タイパとかコスパとかを気にしすぎるあまり、それと同じくらい大切なことを見失って、蔑ろにしているような気がします。

損切りして損失を最小限に抑えようとしていたはずが、逆にもっと損しちゃってた場合もあるんじゃないですかね。

株だって、下がってきたタイミングですぐに売らずに我慢して持っとけば、V字回復して前以上の値段まで上がることだって稀にはあるんじゃないですか?株なんてやったことないから知らんけど。

ちょっとやそっとのことでオロオロせずに、もっとどっしりと構えていた方が結果的には得だった、そんなことだって時にはあると思いますよ。

『カメラを止めるな!』

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映画『ブルックリンでオペラを』観てきたら、ちょっとオペラとか舞台とか観てみたくなった

映画『ブルックリンでオペラを』観てきたら、ちょっとオペラとか舞台とか観てみたくなった

先日、浜松市のミニシアターシネマイーラさんで、映画『ブルックリンでオペラを』観てきました。

最初ノーマークで見落としてたのですが、好きな女優のひとりのアン・ハサウェイが制作にも関わりつつ出演しているとSNSのタイムラインに流れてきたことで知って、予告編を見てみたら面白そうだったので、公開を楽しみにしていました。

予告を見た感じ(ちょっと軽いテイストのラブコメかな?)と予想してたら全然違って、揺さぶりまくられて最後には少し泣きました。これはヤバい。

(人生このままでいいのか?)と鬱屈したものを抱えつつ、何かきっかけが天から降ってきたりしないかなぁなどと都合のいい夢を見ながら、しかしあと一歩を踏み出せずに日々を過ごしている人がうっかりこの映画を観たら、今後の人生を左右する重大決心を強烈に後押しされそうな気がします。

軽めのラブコメを装いつつ、ゾーンは狭いかもしれないけどそこにハマってもがいてる人にはぶっ刺さりすぎる、実は激ヤバな映画なのかもしれません。

ちょうど普段はやらないことをやってる時に観た映画の劇中に「いつもと違うことをして殻を破りなさい」といった意味の助言が飛び出してきたのにも意表を突かれました。

いつもとは違う道を歩いて帰り、今まで一度も入ったことのない駅前の居酒屋で一杯飲んでみたい気分になったくらい。

まあ、さすがに実行する勇気はありませんでしたが。

映画の余韻に浸りながら静かに飲みたいのに、団体が騒いでたり常連がうざ絡みしてきたらヤだなとか考えちゃったら、ね。

それでもまんまとオペラとか舞台とかちょっと観に行ってみたくなっている程度には、毒されています。

なんかちょうどいいのないかなぁと思っていたら、Twitter (X)のタイムラインにブロードウェイ・ミュージカル『天使にラブ・ソングを…』の広告が流れてきて、稀にはやるなぁ!と唸らされました。

いっつも「興味がない」を押すかブロックかミュートせざるを得ないしょうもない広告しか流してこないくせに。

オペラはさすがに敷居が高すぎる。かといって舞台だと歌がないかもしれない。そこでこの『天使にラブ・ソングを…』ミュージカルですよ。今の気持ちにジャストフィットする最適解がまさかこんなところにあったとは。

時をほぼ同じくして、タイムラインに「一度は行くべき絶品ハンバーガー東京20選」が流れてきて、そのリストにウーピーゴルドバーガーという店が載っていて場所もミュージカルの会場のすぐ近くで、ますます(これは行くしかない)と運命めいたものを感じています。

日程と売れ残っている席種の料金を見比べつつ、さてどうしようかと思案に暮れるひととき。このときがまた悩ましくも楽しかったりするのですよね。

アン・ハサウェイ

『天使にラブ・ソングを…

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写真撮影を趣味にしている男の映画『シャイニング』評はちょっとズレている

写真撮影を趣味にしている男の映画『シャイニング』評はちょっとズレている

映画『シャイニング』といえば、巨匠スタンリー・キューブリック監督による名優ジャック・ニコルソン主演の超名作ホラー映画として名高いですよね。

自分も幼い頃に初めて観た時には恐怖に震え上がりましたし、しばらく経った後に再び観た時にも同じように恐怖しました。

あれから何十年も経った今でもそんなことを覚えているほど怖かった、『エクソシスト』と並ぶホラー映画の金字塔です。

では今『シャイニング』を観ても昔と同じように恐怖に震えるのかというと、そんなことはありません。

むしろ真逆で。恐怖とはまったく別の感情に襲われております。

感動の嵐に。

(1980年の作品でこの映像美どうなってんの!?)

(構図完璧!)

(今観ても斬新なアングルの数々!)

(まったくブレない超滑らかな映像は一体どうやって撮られているんだ?)

(ジャック・ニコルソンの多彩な顔芸おもしろ!ていうかジャック・ブラックにめっちゃ似てるなぁ。いや逆か、ジャック・ブラックがジャック・ニコルソンのことが好きで影響を受けているのか?)

一例を挙げるとこんな具合でして。映像が凄すぎて次から次へと感動が押し寄せて、恐怖を覚えている暇がないのですよ。

この視点の変化には、10年ほど前に始めた趣味のデジタル一眼カメラでの写真撮影が影響していると思われます。

何事もそうだと思うんですけど、趣味にしろ仕事にしろ、自分で実践して知っていることって、機材や手法や裏側への理解や興味が芽生えたり深まったりするじゃないですか。

それと同じで。

1980年当時のどんなカメラを使ったらこんなに美しい映像が撮れるんだろう?とか、当時のカメラはめちゃ大きそうなのにどうやってこんなアングルから撮ったんだろう?とか、感心というか好奇心というか驚愕というか信じ難いというか。

そんなわけで、私は今、映画『シャイニング』を観たら、怖がる暇もなく巨匠の手腕に舌を巻いております。

シャイニング

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主演女優のふたりが超可愛いから、という男の欲望丸出しの不純な動機100%で、浜松市のミニシアターでフランス映画『私がやりました』を観てきた

主演女優のふたりが超可愛いから、という男の欲望丸出しの不純な動機100%で、浜松市のミニシアターでフランス映画『私がやりました』を観てきた

浜松市のミニシアターシネマイーラで、フランソワ・オゾン監督のフランス映画『私がやりました』を観てきました。

近隣の上映館はわずか三館。

ただ、近隣といってもそのうち二館は片道約80kmある愛知の伏見ミリオン座と片道約100kmある静岡市のシネ・ギャラリーで、とても気軽にふらっと映画を観に行ける距離ではないので、実質浜松市のシネマイーラ一択。

当初は静岡市のシネ・ギャラリーに『ザ・キラー』を観に行くついでに二本連続で観ようかと考えていたのですが、幕間わずか10分で連続上映だったため、トイレ休憩に間食にと慌ただしすぎるのが気がかり(ローカルルールで上映中の出入りや飲食が禁止のため)で、三館の中では最も自宅から近い浜松市のシネマイーラで観ることにしました。

唯一の懸念は急用で上映時間に都合がつかなくなることでしたが、幸いそんな心配も杞憂に終わり無事に観てくることができました。

物語の舞台は1935年のフランス、パリ。舞台の背景の関係か、クラシック作品リスペクトの映像や演出が多いのですが、ガーリーさやポップさを押し出した美術や衣装も盛りだくさんで、古風でありながら斬新で可愛らしくもある映像が最高でした。

物語の発端となった事件そのものを直接写していなかったので、本当のところはどうなのか想像を膨らませつつ逆転司法闘争からの最後に真相かな?と予想しながら観ていたら全然違いました。

そんな本格的なサスペンス・ミステリーではなく、それでいいのかな…と観ているこちらが心配になる程、力技でやや強引に進行していきます。

矛盾なく本格的にきっちりしすぎていると、本作の登場人物たちの愛すべきユーモラスな持ち味が損なわれてしまうに違いないので、細かいところの整合性は捨ててキャラクターの魅力を前面に押し出す方向に振ったのでしょう。

主演女優のふたりが超可愛いのはもちろん、それ以外にも魅力的な人物たくさんでとても楽しい映画でした。勘違い自己陶酔の激しいクズの中のクズだった主人公の彼氏だけは最初好きになれず、なんでこんな男に引っかかったんだと頭が痛くなりましたが。

新聞の見出しで登場人物たちのその後を示唆するユーモアセンス抜群のエンドクレジット最高ですね。『ワンピース』の新聞とか手配書の懸賞金更新みたいで。

たまにミニシアターに行くと、上映予定作品数本の予告の後にすぐ本編開始で気持ちいいですね。宣伝まみれの大手シネコンとは大違い。

ミニシアターにはミニシアターの、大手シネコンには大手シネコンの良さ、魅力がそれぞれあるのは重々承知の上ですが、それでも物には節度ってものがあると思うんですよね。

フランソワ・オゾン

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往復電車賃3000円以上払って静岡市のミニシアターに行って、Netflixで配信されている映画『ザ・キラー』を1900円で観てきた

往復電車賃3000円以上払って静岡市のミニシアターに行って、Netflixで配信されている映画『ザ・キラー』を1900円で観てきた

たぶん、母や妹に話したら「はぁ?」って顔をされると思うんですよね。

自宅から静岡市まで約100km。往復電車賃3000円以上、片道一時間半を費やして静岡市のミニシアター静岡シネ・ギャラリーまで行って、Netflixで配信されている映画『ザ・キラー』を1900円払って観てきたなんて話したら。

理解不能どころか、正気を疑われるかもしれません。

飲食代も含めると映画を一本観るのに5000円以上かけているわけで、コスパやタイパでいったら赤字も赤字、大赤字ですからね。

母や妹の呆れ顔や声を見たり聞いたりするのは愉快ではあるのと同時に不愉快でもあるので、ずっと黙ってると思います。

近いうちにみんなで東京の次女宅に押しかける予定があるので、もしかしたらみんなでお酒でも飲みながら話してたら、うっかり口を滑らせてしまう可能性はありますが。

どうせ理解されませんからね。男のロマンなんて。

だって、あの『セブン』や『ファイト・クラブ』を手がけたデヴィッド・フィンチャー監督の新作ですよ。そら映画館で観たくなるでしょう。どっか近くで上映してないかな、と探すでしょう。

そしたら、片道約100kmあるものの同じ県内の静岡市のミニシアターでちょうど上映開始されたばっかりだったので、これ幸いと突撃してきました。

映画は、仕事の成功の確率を少しでも上げるための心得を淡々と自分に言い聞かせるように話す凄腕ヒットマンの独白で進むという内容で、派手なアクションはほとんどなかったですが、そのぶん内面に切り込んだ丁寧な作りに引き込まれました。

自分の行動を律するための暗示をかけるかのように彼独自のこだわりやルールを披露しているそばから、そのルールを破らざるを得なかったり自分が思い描いていたのとは違った結果になってしまったり、理想と現実のギャップとアクシデントを乗り越えるリカバリー能力の高さが見どころです。

自分も音楽が好きなので、心理状態を落ち着けるために音楽を聴いていたところも好きですね。カメラ視点の主観と客観が切り替わるたびに音楽の聞こえ方が変化していたところも芸が細かかったですが、切り替えが頻繁だったのでそこはちょっと気になったかな…。

心理状態を落ち着けるための音楽に彼が選んでいたのはThe Smithsの楽曲でしたけど、自分だったら仕事で常にベストをキープするための楽曲に誰を選ぶだろう。

これ難しくないですか?

激しすぎたら音楽に引っ張られて仕事が手につかなくなっちゃうし、逆に心地良すぎてもひと休みしたくなっちゃうし。しっくりくる曲を見つけるまでに仕事をミスりまくってクビになりそうです。

面白い一本でした。

やっぱり映画館まで観に行ってよかった。配信で家で手軽に観れるのもいいですけど、良作を映画館で堪能するからこそ得られる満足感も間違いなくありますね。

以前、配信で一度映画を観てみたことがあるんですけど、その時は映像と音がいつの間にかズレちゃってて、(なんだよこれ気持ちワル!)とガッカリしたので配信にはあまり好印象がないんですよね。

退会手続きが迂遠すぎて面倒くさいとか、観たい作品を探すのが大変とか、いつの間にかラインナップから消えてたりとか、観たい作品に限って別料金の支払いが発生するとか、利便性と表裏一体の負の側面も気になりますしね。

デヴィッド・フィンチャー

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